いま何が起こっているのか?

3.11以降のことを原発・放射能の影響・エネルギー問題などの記事を記録している

朝日新聞2015年2月19日


(プロメテウスの罠)弁当ガイギー:19 測定、世界に広がる:朝日新聞デジタル

◇No.1189

 

 伊藤穣一(48)はカナダバンクーバーにいた。

 2014年3月21日。IT起業家らが集うトークイベント「TED」が開かれていた。

 ビル・ゲイツや歌手のスティングが居並ぶ中、最終日に登壇したのがマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤だ。

 放射線測定ボランティア「セーフキャスト」の活動を振り返り、「地図よりコンパスを」と語った。

 原発事故が発生。放射能汚染の実態が分からない。線量計が欲しい。だが売り切れ。それなら作ろう……。

 伊藤はあらかじめ描く計画を「地図」と呼び、状況に応じた瞬時の判断を「コンパス」と呼ぶ。

 「私たちは、強力なコンパスを持つことで、ここまでたどり着いた」

 測定地点は今、2500万を超え、世界60以上の国と地域に広がる。

 ボランティアのメーリングリストには約700人が登録する。

 13年3月には文庫本サイズの小型版「bガイギーナノ」が出た。ネットで買って自分で組み立てる。

 弁当箱大の線量計「bガイギー」は1台1千ドル(約11万円)かかるが、「ナノ」は半額以下の450ドルだ。

 米線量計メーカー「インターナショナル・メッドコム」が製造し、約470台を出荷。国内のほか、米ワシントン、仏ストラスブール台北でも組み立て講習会が開かれた。

 イラクバグダッドでは、「ナノ」で、劣化ウラン弾による放射能被害の調査も進められている。

 メディア活動を支援する米ナイト財団からは、11年9月に25万ドル(当時、約1900万円)、12年12月には約40万ドル(同、約3300万円)の助成金も受けた。

 中心メンバーのピーテル・フランケン(47)は、11年12月からマネックス証券最高技術責任者(CTO)の職にある。

 だが引き続き、週2日程度は終業後、東京・渋谷の「セーフキャスト」の事務所に詰め、日に日に増えるボランティアたちの調整に当たる。

 「チェルノブイリの時にはできなかった細かい線量データの記録が、ネットと市民の力で可能になった。データをオープンにすれば、よりよい判断ができる。セーフキャストはライフワークです」

 (平和博)