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毎日新聞 核のごみ:最終処分場計画で苦悩するフランスに重なる明日の日本 2015年05月08日

この記事を書かれた記者の文末が、重くのしかかる。
この大きすぎる問題を先送りにする私たちではないだろうか?
原発を始める時に真っ先に考えなければならなかった問題。
50年前に出せなかった答えが100年後に出せるとも思えない。
引き返せない道を、引き返す方法を国民が考えなければー
(以下記事要約)

「フランスは日本と比べて地震のリスクが低いことを強調すればするほど、私は日本で最終処分場が実現するのか不安になった。青森県・六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物をどうするのか。また、各地の原発施設のプールで保管されている使用済み核燃料をどうするか。経済産業省ではようやく、最終処分場の候補地選定調査の準備に取り掛かっている段階だ。だが、悠然と構えている時間はない。原発が稼働する限り、「
核のごみ」は刻一刻と増えていくからだ。まずは本格的な議論を早急に始めなければならない。」宮川裕章

(↓記事)

 

 

 

ビュール村の地下480メートルの試験施設内。粘土質の地盤の強度や水の浸透性などを調べている=2013年6月25日、宮川裕章撮影


原子力大国のフランスで、人類の難題「核のごみ」を巡る議論が続いている。北東部ビュールに計画中の放射性廃棄物最終処分場は、1991年以来の長い議論の末、10年後に試験運用を始める予定だが、反対派の運動もあり、操業開始時期は依然、不透明だ。一方、最終処分場の操業まで放射性廃棄物を保管している北西部のラアーグ核燃料再処理工場では、貯蔵施設が満杯となるため拡張計画がスタートした。山積する課題に苦悩するフランスの姿は、明日の日本と重なる。

 

 仏ナンテールの裁判所は今年3月末、ビュールの処分場建設計画に反対する6団体が、計画を進めるANDRA(放射性廃棄物管理機関)を相手に起こした訴訟で、訴えを却下する決定を出した。6団体は、ANDRAがビュールの地下水脈の存在を過小評価し、処分場候補地選定に向けて誤った情報を提供したとして違法行為に該当すると主張していた。最終処分場を巡る反対派とANDRAの対立は続いている。

 24年前の91年、仏政府は最終処分場の建設地に適した場所を決めるため、地下試験施設の建設計画を策定し、地質条件からビュールなど国内3カ所の候補地を選んだ。

 ビュールは鉄道駅から車で1時間以上離れた小さな農村。一帯は、フランスで最も所得水準の低い地域の一つだ。地下に放射線を遮断する厚さ120メートルの粘土層があることなどから、98年に地下試験施設の建設が決まり、2000年に掘削工事が始まった。現在は地下480メートルに全長1290メートル以上の坑道を張り巡らせている。

 私は13年6月に地下試験施設内に入ったが、まるでSF映画の宇宙基地のような景観だった。直径約5メートルの坑道をフォークリフトが行き交い、粘土質の岩壁には3200基のセンサーが設置され、地盤の動きを測定していた。

 職員によると、この場所に最終処分場を建設する場合、岩盤の動きを少なくとも100〜150年間抑えるだけのコンクリートが必要という。放射性廃棄物を貯蔵する空洞は歳月とともに次第に埋まり、コンテナも風化する。放射性物質が岩に染み出すが、粘土層に閉ざされ、外に漏れるまでに10万年以上かかる計算という。

 政府はビュールの最終処分場をまだ認可していない。地下試験施設と最終処分場は本来、別の計画だ。しかし、地元住民を取材すると、両者を混同し、処分場の建設が既に決定されたと勘違いしている人が多かった。

 実際、06年に最終処分場の建設基本計画が策定された時も、住民への説明会などが遠隔地で開かれ、民意が計画に十分反映されなかったとの不満が出た。13年には、建設認可申請の条件である住民討論会が、反対運動による妨害を理由に中止された。

フランス北西部のラアーグ核燃料再処理工場の高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の内部。ガラス固化体を床下約20メートルの場所に貯蔵する=2012年2月16日、宮川裕章撮影
フランス北西部のラアーグ核燃料再処理工場の高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の内部。ガラス固化体を床下約20メートルの場所に貯蔵する=2012年2月16日、宮川裕章撮影

 住民討論会の代替策として、インターネットを使った討論会などが実施され、さらに地元住民代表が専門家と意見交換する「市民会議」がパリで開かれた。この結果などを受け、ANDRAは14年5月、新たな建設基本計画を公表した。当初は25年に操業開始予定だったが、市民会議で性急だとの批判が出たため変更された。

 新計画によると、17年に認可申請を終え、20年に認可を得られれば、同年中に建設に着手。25年に試験運転を開始する。試験運転の期間は5〜10年と想定している。だが、不測の事態が起きない保証はなく、反対派の動向も不透明だ。

 市民会議を傍聴する住民の姿は少なく、計画の周知がどこまで進んだのか疑問視されている。政府やANDRAがどこまで真剣に地元住民に必要な情報を伝え、民意を吸い上げようとしたのかは分からない。だが、地元住民の理解や民意を置いてきぼりに計画が進んでいる印象を受ける。中央のエリートたちが時には強引に事を進めるのがこの国の特徴でもある。反対運動の背景には、不十分な住民参加への不満がある。

 最終処分場計画は、ラアーグ核燃料再処理工場の運営にも影響を及ぼす。運営する仏原子力大手アレバ社は4月、工場内にある高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設の拡張計画を発表した。

 同工場では国内外から受け入れた使用済み核燃料を再処理し、ウランプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の原料となるプルトニウムを抽出している。再処理の際に残る高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にして、国外分は発注国に返還し、国内分は最終処分場が稼働するまでの間、施設内に貯蔵している。

 アレバ社によると、現在の貯蔵施設は既に満杯になりつつある。今後7年間に2億3000万ユーロ(約297億円)を投入し、約6割増の収容数に拡張する計画だ。現在、地元県などが周辺11市町村の住民に環境への影響などの情報を開示し、意見を求める公共調査を行っている。同社は拡張計画について「最終処分場を待つ間の安全な解決策」としているが、ビュールの動向次第で保管期間が長期化する可能性もある。

 このように、紆余(うよ)曲折を経てようやく最終処分場の認可申請までたどり着きそうなのが、現在のフランスの状況だ。91年に試験施設の計画が生まれてから既に24年が経過し、この先、反対派の動向にもよるが、操業まで少なくとも15年以上かかる見通しだ。

 フランスの原発事情を取材して感じるのは、東京電力福島第1原発事故を機に日本で崩れ去った原子力安全神話が、フランスにはまだ残っているということだ。また、農村部には政府権力に対する無力感が強く、政府の政策を受け入れやすい土壌がある。

 日本はどうか。ANDRAの職員が、フランスは日本と比べて地震のリスクが低いことを強調すればするほど、私は日本で最終処分場が実現するのか不安になった。青森県・六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物をどうするのか。また、各地の原発施設のプールで保管されている使用済み核燃料をどうするか。経済産業省ではようやく、最終処分場の候補地選定調査の準備に取り掛かっている段階だ。だが、悠然と構えている時間はない。原発が稼働する限り、「核のごみ」は刻一刻と増えていくからだ。まずは本格的な議論を早急に始めなければならない。【パリ宮川裕章】

フランス北東部ビュール村の地下480メートルの試験施設内。粘土質の地盤の強度や水の浸透性などを調べている=2013年6月25日、宮川裕章撮影
フランス北東部ビュール村の地下480メートルの試験施設内。粘土質の地盤の強度や水の浸透性などを調べている=2013年6月25日、宮川裕章撮影


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