いま何が起こっているのか?

3.11以降のことを原発・放射能の影響・エネルギー問題などの記事を記録している

東芝不正の背景にあった原子力事業買収の重荷

これを読むべし!しっかり、なぜ東芝のような大きな会社が粉飾決算をしていったのか?原発が美味しすぎて、手を離せなくなってしまったということが、よくわかる。
だから、折角手にしたのだから輸出して元をとりたいのが企業の魂胆。
こうしてお金に企業理念も信念も、汚れていってしまう。
東芝の創設者の素晴らしい田中久重の英知が、ちがうものになってしまった。

1873年(明治6年)に田中久重は、工部省(当時の政府機関、産業の近代化を推進)から受注した電信機を開発していましたが、受注拡大に伴い、1875年(明治8年)東京・銀座に工場を創設しました。これがのちの田中製造所の創業であり、東芝の発祥となりました。




http://mainichi.jp/premier/business/entry/index.html?id=20150728biz00m010016000c

東芝が抱える「アキレスけん」ウェスチングハウス

第三者委報告書が明かさなかった謎(1)

 東芝の不正会計の謎は深まるばかりだ。なぜ、東芝の歴代社長は、あれほど執拗(しつよう)に利益水増しを部下に求めたのか。なぜ、監査法人は利益水増しに「気付かなかった」のか。

 当編集部は、7月21日に全容が公表された第三者委員会の報告書の中身を3回にわたってリポートした。しかし、謎は報告書を何度読んでも解き明かされない。そこで我々は発想を逆転させた。報告書に書かれていないことにこそ、東芝不正会計の真相が隠されているのではないか、ということだ。

東芝本社(手前)

 報告書は東芝の歴代社長が過剰な利益を各事業部門の幹部に要求し、不正会計が組織的に行われたと認定した。その責任を取って、田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聡(あつとし)相談役の歴代3社長が21日付で辞任した。

 歴代社長が、過剰な利益を部下に繰り返し要求した「動機」は何なのか。

会見で飛び出した「ウェスチングハウス」への懸念

 それを解明する手がかりが、報告書提出を受けて21日に別々に行われた東芝と第三者委の記者会見の質疑の中にあった。

 企業の記者会見は通常、報道関係者向けに行われ、投資など財務に関わる案件は、投資家や証券アナリスト向けのIR説明会を別に開くことが多い。だが、今回は緊急会見だったためか、二つの会見に記者とアナリストが混在して参加した。

 東芝の会見は、東京・浜松町の東芝本社ビルで午後5時から開かれ、会場には400人近い関係者が詰めかけた。

 会見が始まった当初は、報告書の内容に関する質問が相次いだ。1時間ほど過ぎたころ、1人の記者が東芝が2006年に行った米原子力大手ウェスチングハウスの買収に関して質問した。

 「ウェスチングハウス買収で、東芝原子力事業の規模は15年に3倍になると言っていた。その後、思うようにいっていない。それが達成できないから、利益水増しを迫ることにつながったのではないか」

 会見の冒頭で社長辞任を表明した田中氏は「ウェスチングハウスが原因とは思っておりません」と答え、隣に座った財務部担当の専務に詳しい回答を委ねた。

 「ウェスチングハウスの損益の8割以上は保守と燃料の交換であり、安定した収益を上げている。買収当時に比べ営業利益は大幅に拡大しており、質問の懸念は、特に大きくは感じていない」というのが専務の答えだった。

 この説明を額面通りに受け止められれば問題はない。だが、ウェスチングハウスの買収で東芝が払った巨額のお金と、その収益性に多くの関係者が懸念を示しているのだ。

辞任の記者会見に臨む東芝の田中久雄社長(中央)=東京都港区の東芝本社で2015年7月21日

アナリストが懸念を示した「のれん」「減損処理」

 第三者委の会見は、東芝本社から2キロ余り離れた高級ホテルにしつらえた会見場で午後7時から行われた。そこでも、証券アナリストから、この点に対する質問が出た。

 「東芝の資産には、ウェスチングハウスの『のれん』が大きく乗っている。株式市場関係者としては、減損の懸念がある。11年には福島で原発事故があり、業績が悪くなっているとの懸念がどうしても残っている。そこで質問だが、第三者委の調査は、減損処理には関わらないということか。減損処理は1カ月後に出てくる有価証券報告書で精査されるという理解でいいのか」

 これに対して第三者委の委員は、「私たちの調査の結果、東芝に約1500億円の利益の修正が出る。そこから派生する論点は調査対象外だ。棚卸し資産の評価、固定資産の減損、この中に『のれん』も入ると思うが、繰り延べ税金資産の処理、これらは我々の調査対象外。恐らく会社(東芝)が検討して、監査法人と協議されることだ」と回答した。

いまだに明かされない「東芝財務への影響」

 わかりにくい会計用語だが、解説すると、企業会計には、将来、利益を上げることを前提に、資産として計上することが許されている項目がある。委員が答えた「のれん」や「繰り延べ税金資産」がこれに当たる。何らかの事情で利益を上げられなくなったら、資産から外して損失として計上しなければならない。これが「減損」だ。

 第三者委は、過去6年あまりの東芝の決算で1500億円の利益水増しがあったと認定した。そうすると、「のれん」や「繰り延べ税金資産」にどれだけ影響するかが問題になる。第三者委はこの部分は調査の対象外で、企業と監査法人がやるべきことだというのだ。

 記者やアナリストは、東芝がウェスチングハウス買収で計上している「のれん」がどうなるのかを聞きたかった。そこに東芝の財務上のアキレスけんがあるからだ。この話は、相談役を辞任した西田氏が社長だった06年にさかのぼる必要がある。次回、ウェスチングハウスの「のれん」とは何か、詳しく説明しよう。


http://mainichi.jp/premier/business/entry/index.html?id=20150729biz00m010008000c

第三者委報告書が明かさなかった謎(2)

 話は2006年にさかのぼる。東芝は当時社長だった西田厚聡(あつとし)前相談役の「選択と集中」の号令のもと、半導体原子力事業の2本柱に位置づけた。米原子力大手ウェスチングハウスの買収は、原子力事業に投資を集中させる目玉中の目玉だった。

 長い交渉の末、同年10月に買収手続きが完了する。東芝のウェスチングハウスへの出資比率は77%で、買収額は約4900億円だった。

 その後、07年にカザフスタン国営原子力事業会社に10%分を約630億円で売り、逆に11年9月には米企業から20%分を約1250億円で買い増すことになった。この結果、現在は87%の株式を保有している。

ウェスチングハウス買収に当初から「高値づかみ」の見方

 だが、この買収は、当時から「高値づかみ」の見方が強かった。米ゼネラル・エレクトリック(GE)と日立製作所の連合や、三菱重工と競合し、当初言われていた金額の2倍ほどに買収額が膨らんだからだ。

 東芝は買収時、世界の原子力需要は20年までに、原子力発電所で約130基相当分拡大するとの見込みを明らかにした。当時の東芝原子力事業の規模は約2000億円。ウェスチングハウスを傘下に収めたことで、15年に約7000億円、20年には約9000億円に拡大するとの予想も示した。

廃炉が決まっている関西電力美浜原発1号機(左)は、ウェスチングハウス製の加圧水型原子炉を使っていた=福井県美浜町で2015年3月14日

福島原発事故で、原発事業をめぐる状況が一変

 ところが、11年の福島第1原発の事故で状況が一変する。内外で原発事業計画の見直し機運が高まり、想定していたほどの新規受注が難しくなった。

 東芝は、ウェスチングハウスの「のれん」を4000億円前後、資産として計上している。これは、買収時の収益想定のもとで、東芝監査法人が協議して決めたものだ。

 「のれん」とは何か。企業を買収する場合、相手のその時点の価値より高い買収額になることが多い。買収元の企業は、買収した相手の価値を資産として計上するが、その時点の価値だけを資産計上すると、買収額との差額が中ぶらりんになる。

 この差額を資産として認めないと、企業が価格を上積みして買収をした時に、損失を計上しなければならなくなる。そうなれば企業買収をしにくくなる。このため、この中ぶらりんの差額を「のれん」と名付けて、資産計上を認めているのだ。

 だが、それは買収によって収益が間違いなく拡大するという説明が成り立つ場合に限られる。収益拡大が見込めなくなれば、「のれん」は架空のものとなり、計上した資産額を減らさなければならない。これを「減損」と言う。減損によって、「高値づかみ」が現実になってしまうわけだ。

4000億円前後の「のれん」に減損の懸念

 東芝がウェスチングハウス買収で資産計上した4000億円前後の「のれん」について、原発事故後の状況変化で、「過大評価であり、減損が必要ではないか」という懸念があるのだ。

 今回の不正会計を受け、東芝新日本監査法人とともに、15年3月期決算と有価証券報告書の作成を協議している。21日の会見で東芝の財務部担当専務は、「買収当時に比べウェスチングハウスの営業利益は大幅に拡大している」などと述べた。東芝はウェスチングハウスの「のれん」について、減損の必要はないと考えていることを示唆している。

 東芝は、実はもう一つ財務上のアキレスけんを抱えている。それが第三者委員会の記者会見で委員が説明した「繰り延べ税金資産」だ。

繰り延べ税金資産」取り崩し迫られる可能性も

 「繰り延べ税金資産」とは、将来、税金の一部が還付されることを想定して計上する資産のことだ。将来の黒字が確実でなければ、還付の前提になる納税ができず「架空の資産」となってしまう。収益が悪化した場合は、取り崩しが必要になる。

記者会見で記者の質問に答える東芝の田中久雄社長(中央)。左は室町正志会長、右は前田恵造専務=東京都港区の東芝本社で2015年7月21日

 今回、第三者委の報告書で、6年あまりにわたり1500億円以上の利益水増しが認定された。東芝繰り延べ税金資産の減額を迫られる可能性がある。

 東芝の歴代社長は、なぜ執拗(しつよう)に利益水増しを部下に求めたのか。その背景には、東芝の財務が抱える二つのアキレスけん「ウェスチングハウスの買収ののれん」と「繰り延べ税金資産」があった。

 歴代社長は、リーマン・ショックの影響や巨額の企業買収で弱まった財務基盤の中で、高い収益性を求められてきた。その結果、「チャレンジ」と称して過剰な利益を部下に求めざるを得なかった、という解釈も成り立つ。

 第三者委の報告書には、もう一つ触れられなかったことがある。それは21日付で退任した西田前相談役と、佐々木則夫前副会長の2人の対立だ。これについては次回、解説する。

http://mainichi.jp/premier/business/entry/index.html?id=20150730biz00m010013000c

 

東芝最大の謎、なぜトップ2人は対立したのか

第三者委報告書が明かさなかった謎(3)

 東芝第三者委員会の報告書をめぐる最大の疑問は、西田厚聡(あつとし)氏、佐々木則夫氏という2人の元社長の対立について一切触れていないことだ。

 2人の対立が風評に過ぎないからだろうか。否。そんなことは決してない。2人の激しい対立は周知の事実であり、後述するが、東芝株主総会で別の役員が株主に陳謝するという異例の事態にまで至っている。

 当編集部は、第三者委の報告書に書かれていないことにこそ、東芝不正の真実が隠されているのではないかと見ている。

 歴代社長が部下を繰り返し責め立て、利益の水増しを求め、組織的に不正会計が行われた。その背景に、東芝が2006年に買収した米原子力大手ウェスチングハウスののれん問題など、財務上の二つのアキレスけんがあったことをこのシリーズの第1回第2回でリポートした。この財務上の問題は第三者委が「調査の対象外だ」として、報告書には盛り込んでいない。

 報告書に盛り込まれなかったトップ2人の対立も、不正問題に大きく影響したのではないか。対立の経過をもう一度振り返ってみよう。

一時は「蜜月」状態だった西田氏と佐々木氏

 今や重荷になっているとも言われるウェスチングハウスの買収を主導したのが、西田氏と、原子力事業部長を務めるなど原子力事業ひと筋に歩んできた佐々木氏だ。二人三脚で直接交渉に関わり、買収を成し遂げた。

 西田氏は09年、佐々木氏に社長を譲る。同年3月の交代会見で、佐々木氏を「東芝原子力事業をグローバルに飛躍させた」と高く評価し、「私の右腕」と持ち上げた経緯がある。2人の「蜜月」の時代だ。

 この時期、リーマン・ショック後の需要減で、半導体価格が急落し、西田氏が掲げた選択と集中の2本柱のうち、半導体事業で巨額の赤字が出ていた。東芝は、もう一つの柱の原子力に頼らざるをえない事情があった。

2009年当時の会見で、東芝の新社長に決まった佐々木則夫氏(右)と握手を交わす西田厚聰

 だが、蜜月は長く続かなかった。わずか4年後の2013年2月、佐々木氏が社長を退き、田中久雄氏が後任となる人事を発表した際、西田氏と佐々木氏は多くの記者の前で、互いを批判するような言葉を口にする醜態を演じてしまう。

 「一つの事業しかやっていない人が(会社全体を)見られるかと言えば、見られない」(西田氏)。「業績を成長軌道に乗せるという私の役割は果たせた」(佐々木氏)というやり取りだ。この辺りの事情は「元社長2人の対立で20万人東芝グループの危機」で書いたので、ここでは詳しく触れない。

社長罵倒の尋常でない週刊誌会長インタビュー

 しかし、2人の対立はこれだけにとどまらなかった。記者会見から3カ月後、週刊現代6月1日号に、東芝の社員が仰天する記事が掲載された。

 記事には「スクープ!『社長をクビにした理由』を本誌にぶちまけた! 東芝のサプライズ人事 西田会長がその全内幕を明かす」との見出しが躍っていた。

 記事中、西田氏が「佐々木を社長に指名したのは僕です。選んだ僕に責任がある。ただ、このままだと東芝の将来がとんでもないことになってしまうと思ったのも事実です。社長を新しい人にかえて、もう一度東芝の再生を図らないと、大変なことになってしまう」と語ったと書かれている。

 記事には、「西田を自宅で直撃すると、本誌の独占取材を受け入れた」と書かれ、「社内で会議ばかりやっている」「英語がろくに話せない」「利益を出しても日立には負けている」と、延々と佐々木氏に対する批判が続くのだ。

 週刊誌が発売された時、佐々木氏は6月末の株主総会後に副会長になることは決まっていたが、まだ社長だった。それをここまで批判する会長のインタビューが週刊誌に掲載されるのは尋常ではない。

株主総会で株主に陳謝する事態に

 ちなみに、記事によると、「僕は去年、株主総会が終わった時点で『来年は代わってもらうよ』と伝えたのです。しかし、本人は『あと1年やりたい』と言い出した。ところが彼は後任をちゃんと育てていなかった。人材育成もできていないのに、あと1年なんてありえませんよ」と西田氏が言ったと書かれている。

 東芝は03年に委員会設置会社となった。この制度では、社外取締役が主導する「指名委員会」が役員人事を決めることになっている。社外取締役が経営を監督する制度だが、そんな制度などまったく意に介していないように見える。

記者会見で辞任を報告する東芝の田中久雄社長(右)。左は室町正志会長=東芝本社で2015年7月21日

 その年6月の東芝株主総会で、副社長が「ご心配をかけて申し訳ない」と株主に謝罪する騒ぎになった。

 企業社会では通常ありえない対立劇を繰り広げた西田氏と佐々木氏。09年から13年の間に何があったのか。この間、各事業部門の幹部は、2人から「チャレンジ」という言葉で過剰な利益を要求され、不正な利益水増しに走っていた。

 11年3月には福島第1原発の事故が起きた。「選択と集中」の2本柱のうちの1本が脱落し、残された原子力事業原発事故で先行き不透明になった。東芝の経営に責任を持つトップ2人の対立は、そのことと無関係なのか。

 いずれにしても、トップ間の激しい対立、そのトップの熾烈(しれつ)な利益要求で幹部が組織ぐるみで不正に走る、という異様な事態が東芝を舞台に起きていたことが改めて明らかになった。

謎を残したままで、限界ある再発防止

 第三者委の報告書は、不正の背景には利益至上主義や、上司に逆らえない企業風土があったと指摘した。再発防止策として、役員や役職者の責任を問い、経営トップはじめ全役職員の意識改革を求めた。さらに、実力に即した予算策定をし、「チャレンジ」を廃止し、企業風土を改革すべきだと指摘した。

 だが、2人の激しい対立を改めて振り返ると、「利益至上主義」「企業風土」で片付けられない何かがあったと思えてならない。この謎を残したまま、東芝は再生に進むことができるのか。

 田中氏は21日の社長辞任会見で、「報告書で指摘されたことは真摯(しんし)に受け止める」と言いつつも、「私は不正な処理を指示した認識はありません」「私自身が誰かからプレッシャーを感じたという認識はありません」と、繰り返した。報告書の内容を否定するような言い分である。こんな主張ができるのは、報告書では東芝の本当の姿が描けていないからではないか。