東京電力福島第一原発の事故から、まもなく4年。福井市在住の木下建一郎さん(36)は昨年4月までの1年間、福島県内で放射能除染作業員として働いた。ずさんな放射線管理の実態や、作業員であふれかえる街を目の当たりにした。いま、福井では関西電力高浜原発3、4号機の再稼働に向けた手続きが粛々と、淡々と進む。木下さんはそのギャップに危機感を募らせ、「福井は原発事故への準備、覚悟ができていない」と語る。

 木下さんは市民団体「福井から原発を止める裁判の会」のメンバー。「原発の議論を盛り上げたい」と、2012年の県議補選に無所属で立候補したが落選した。「世間の福島への関心が薄れている。原発に反対する人すら、福島の現状をよく知らないのではないか」。現場を見つめようと、翌13年春から福島で除染作業員として働くことにした。

 インターネットで見つけた契約先は、大手ゼネコンの3次下請け会社だった。宿は津波被害を受けたいわき市の食堂で、40~50人と共同生活をした。日当は1万6千円。そこから宿代と夕食代3千円が引かれた。他の作業員は給与の条件で契約会社を変えるので、毎週顔ぶれが違った。

 除染現場は福島第一原発から20キロほど離れた川内村の森林。集落や道路の端から奥行き20メートルまで表面10センチほどの土をはいだ。線量計を配布され、外部被曝(ひばく)線量は高くなかった。ただ、線量計放射線管理手帳をなくす作業員もいた。「いい加減な管理しかしていないし、作業員も放射線管理に関心を持っていなかった」と振り返る。

 作業員や帰還困難区域の避難者が集まるいわき市の現状にも、危機感を抱いた。満席のマンガ喫茶で、入室を断られた作業着姿の男性が「福島のために来ているのに追い返すのか」と怒鳴っていた。地域の診療所は作業員でごった返していた。居酒屋では「俺は避難者なんだからツケにしろ」と要求している客の姿も見た。

 木下さんは「福井で原発事故が起こったら、規模や原発からの距離を考えると福井市が復興の拠点になる。地域も様変わりするが、市の防災計画はそれを考慮しているとは思えない」と話す。政治からは距離を置き、福島で見た現状を福井で伝えていきたいと考えている。(山田理恵)